セリアック疾患者はアインコーンを食べれるのか

「小麦は食べるな!」(Dr.ウイリアム・デイビス著、白澤卓二訳)にて指摘されている通り、「Dゲノムに存在する遺伝子はセリアック病を引き起こすグルテンとして頻繁に指摘」されています。

セリアック疾患者は、グルテンを完全に断つ必要があると指摘されている根拠とDゲノムを含むスペルト、パン小麦が敬遠される理由はここにあります。アインコーンやエンマー、デュラム小麦やカムートなどにはDゲノムが含まれていないため、グルテンフリーの代替食品と言われています。特にアインコーンはAゲノムしか含まれていないため、グルテンだけでなく、デンプンの構成比からしても消化の良さに定評があります。では実際、アインコーンはセリアック疾患者は食べれるのでしょうか?

セリアック病の治療法は、グルテンを含む食品を一生食べないという選択をすることです。ところが、残念ながら、この選択を一生続けられる人は限定数しかいないようです。それは小麦が持つヘロインと同様の中毒性によるところも多いかもしれませんが、その主な原因は代替食としてグルテンフリー食が美味しくない、健康に悪い為だそうです。

2006年に公表されたある研究結果によると、アインコーンのおかげで、セリアック疾患者が食べられる食事の幅が広がったことを指摘しています。

研究の目的は、試験管内で内臓の培養組織系を作り、アインコーンが小腸粘膜に及ぼす毒性の程度を評価することにありました。

研究の方法は、先ず、12人のセリアック疾患者と17人の被験者の十二指腸末端生検を取り出し、パン小麦のグリアジン (1mg/ml) とアインコーンのグリアジン(1mg/ml)と共にそれぞれを24時間、培養します。コントロールとして、培地のみで培養された生検も用いられました。各生検は、従来通りの組織学的な検査と 成熟Tリンパ球総数(CD3)+腸管上皮細胞間リンパ球(IELs)とヒト白血球抗原(HLA)-DRの免疫組織化学的な検出に使われました。酵素結合した免疫吸着剤の含有量を元に、培養液上清内の分泌されたサイトカインたんぱく質インターフェロンγ (IFN–γ) が計測されました。

研究の結果は、大きな形態学的な変化として、アインコーンのグリアジンを含む生検には、パン小麦のグリアジンを含む生検に見られた陰窩上皮内のヒト白血球抗原(HLA)-DRの過剰発現と成熟Tリンパ球総数(CD3)+腸管上皮細胞間リンパ球(IELs)数の増加が検出されませんでした。一方、パン小麦のグリアジンを含む生検は、アインコーンのグリアジンで培養した後、さほどのインターフェロンγ (IFN–γ)反応は見られませんでした。同様に、コントロール生検にも両方のグリアジン刺激への反応は見られませんでした。

食事を摂る理由は様々ですが、いくら健康に良いから、あるいは必要だからと言っても、美味しくない食べ物は食べたくありませんね。まして、化学物質、農薬、白砂糖、人工甘味料など健康を害する物質とセットとなっているグルテンフリー食材は論外でしょう。アインコーンはグルテンフリーダイエットをされている方々に朗報である可能性が高いことを実験結果は示しています。

参照)Lack of Toxicity in Einkorn Gliadin

アインコーンの消化が良い理由

現代のパン小麦を食べ、お腹が張る、詰まった感じがする等の感覚を覚えたことはありませんか?アインコーンはそうした感覚とは無縁かもしれません。普通小麦は食べられないが、アインコーンなら食べられたという方が実体験ベースで増えています。その理由は主に3つありそうです。

①デンプンの構造が違う

デンプンにはアミロースとアミロペクチンの2種類があります。アミロースはブドウ糖が直鎖状につながっている、α-アミラーゼによる分解が遅く、血糖値が上がりにくい分子構造をしています。一方、アミロペクチンはブドウ糖が枝分かれするようにできているため、α-アミラーゼによる分解が早い、血糖値が上がりやすい分子構造となっています。

アインコーン粒内のデンプンの構造は現代小麦と比べ非常に小さく、コンパクトにまとまっています。そのため、アミロースがアミロペクチンよりもさらにゆっくり消化され、食後のブドウ糖とインシュリン値を下げ、満腹感を持続させます。

また、アミロース自体も他の穀類と比べ少ないことも消化の良さに起因しています。エンマーよりも10%、ライ麦よりも20%もアミロースが少ないという研究結果も出ています。

染色体の数もアインコーンが14であることに比べ、パン小麦は42です。染色体の数が増えたことで、粒自体も大きくなりました。結果として、アミロースとアミロペクチンも増えたことになります。現代小麦は75%がアミロペクチンと言われています。

②たんぱく質の構造が違う

そもそもグルテンは80種類以上あるとされる小麦タンパク質のうち2つ(グルテニンとグリアジン)から構成されています。その中でグリアジンは大方の小麦アレルギーの原因となっています。アインコーンはグルテニンよりもグリアジンの比率が多いにも関わらず、その影響が少ないのです。その理由は、豊富なアミノ酸構成にあるようです。

こちらでも触れた通り、現代小麦は二つのエギロプス属との交配によりDゲノムのグルテンを獲得しました。このDゲノムがグルテン不耐性の原因となっています。アインコーンにはAゲノムしか存在していません。

実際に粉に触れてみるとその違いは明らかです。現代小麦は粘力があり、しっかりと膨らみますが、アインコーンはそうはいきません。長くこねる必要もなく、シンプルにすぐに焼成プロセスに進めます。

注意すべき点としては、アインコーンにも確かにグルテンが含まれているため、セリアック病の方が食べても大丈夫かどうかは科学的に証明はされていません。必ず医者に確認をすべきです。

③水溶性タンパク質が豊富

アインコーン小麦粉を扱うと分かりますが、現代小麦と比べ水分をそれほど必要としないことに気づきます。粉内のでんぷんが液体を先ず吸い込んだ後に、タンパク質が水分を吸収します。アインコーンのタンパク質構造は、水溶性タンパク質(グリアジン)の方が非水溶性タンパク質(グルテニン)よりも多い(2:1の比率)ことを示しています。一方、現代小麦などはその比率が0.8:1です。非水溶性タンパク質を消化するのは難しいため、アインコーンはより消化のしやすい小麦と言えます。

もし小麦由来の消化に悩んでいるならば、消化を促す方法として、1)天然酵母を使う、2)発芽した粒を使う、3)浸水させた粒を使う、の3つを試すとよいでしょう。

参照)3 Reasons Einkorn May Be Easier To Digest Than Other Types of Wheat